川森さん:もともとは本社機能の中の開発部門を分散するという目的で地方にラボを出そうという話が社内であり、候補地を探している中で江田島の方とお話しして、熱い思いのメールをいただき、そこでご縁が始まりました。本当に縁もゆかりもない中から偶然出会えた土地で、実際に行ってみると、海も山も見えてロケーションも良く、COCODEMO江田島ラボの出店はそのように決まりました。最初は1人から始まり、現在は3人が勤務しています。
江田島市の拠点開発を決定したのは、江田島市の方々が率先してフォローしていただいたり、人柄がとても良かったからです。こんなにいい人たちがいるのであれば、われわれもお役に立てることをやりたいという思いが当初からありましたし、5年後、10年後の話かもしれないですが、学校教育に関わってゆく構想もあります。
川森さん:僕らで江田島に対して何かできることはないかというのを考えたときに、最初に挙がったのが教育でした。まずはオフィスに来ていただく形で、小学生向けの教室からスタートしました。今までに5回開催して、約20名の子どもに参加していただいています。
最初にパソコンで僕が作ったゲームを遊んでもらったところ、「これが作れるんだ」と興味を持ってもらえました。その後、実際にそのゲームをScratchで実習したのですが、レッスン時間が過ぎて「終わりの時間だよ」って言っても帰らず続けている子もいて、しっかりと興味を持っていただいている実感がありました。
川森さん:小学生と同様にScratchのレッスンをしました。小学生は教えたことを教えた通りにやって、できたら喜んでくれたのですが、高校生になると指定されていないキャラクターを自由に使ったり、予想外の遊び方をしていたのが面白かったです。結果的にプログラミングはできていましたし。
それとは別に、paizaを使って実際にコードを書いてもらう機会も設けました。さすがに難しかったという意見が多かったのですが、「普段見ているwebサイトの裏にコードが書かれ、動いていることがわかった」とか、「プログラミングがどういうものかわかっていなかったけれど、もう少しやってみたい」などの声を聞いて、高校生にとっては、プログラマーが将来の選択肢の一つに入ってきていることがわかりました。
江田島の高校生は「進学か、就職か」「地元に残るか、都市部に出るか」という将来の道を自分自身で判断しなければならず、そして都市部へ出る選択をする人も少なくありません。しかし、プログラムを学べば、地元で働ける可能性が生まれます。ITの力で地方の産業・生活を変えてゆくことができると思っています。
川森さん:江田島市の方から「教育委員会がプログラミング教育で何をしていいかわからず困っている」と知らされ、江田島市内の複数の小学校をZoomで結び、先生方にタブレットでアニメーションを制作していただくセミナーを開催しました。
現地スタッフと東京のスタッフが連携してサポートしながら、先生方に実際にご参加いただいたのですが、「図画が苦手な子でも素材を組み合わせ、自分のイメージをカタチにできる」、「算数の文章問題や理科の電流の流れる仕組みもアプリを使って表現できるのでは」など、教育現場に立たれているからこそ得られる発想に出会うことができました。
また、セミナーには江田島市の学校の先生方はもちろん、市長にもご参加いただいたのですが、バレットという企業を東京から誘致したことによって、「新たな交流が生まれた」、「江田島市ならではの教育が始まった」など、予想外の効果が生まれているようです。
川森さん:開発の仕事は慣れてくれば、自分の頭の中で組み立てできますが、子どもたちに伝えるとなると、本当に細かくかみ砕いて自分の中で分解してから伝えないといけないので、伝えることが改めてできるようになり、自分自身も成長させてもらえたと思っています。子どもから、考えてもいなかった質問が来たときには、「一緒に試してみよう」と実践もできて、新しい視点を子どもたちから学べるのが楽しいです。
テクテク編集部あとがき
この2年間のリモートワークの広がりにより、仕事と地域との関係性はずいぶん深まったように思えますが、仕事が地域コミュニティに溶け込んでいる事例はあまり多く見受けられないような気がします。COCODEMO江田島ラボは地域から迎えられながら移転をし、教育というテーマで自治体やひとびととの交流を深め、さらに日常業務にも波及効果が生まれているという成功の見本ではないでしょうか。今後、教育のIT化の進展に伴い、このような事例があちこちの地域で見受けられるようになることでしょう。